Dr.JM Medical SQUARE

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腎生検

1.腎生検の適応

検尿異常(蛋白尿・血尿)、ネフローゼ症候群、急性腎不全、移植腎など

 

糖尿病の場合の腎生検の適応は…

・糖尿病罹病期間が5年以内

・糖尿病性網膜症ないし神経症を認めない

・糸球体性血尿を伴う

・急激に発症したネフローゼ症候群や急速な腎機能低下を呈する

 

腎生検の禁忌

・出血傾向

・機能的片腎

・萎縮腎(末期腎)

・管理困難な高血圧、全身合併症(敗血症など)

・嚢胞腎

水腎症

・腎実質感染症(急性腎盂腎炎、腎周囲膿瘍、膿腎症)

・腎動脈瘤

 

2. 腎生検時の注意点と実際

術前に腹部(背部からアプローチ)のエコー、出血時間測定、抗血小板剤の有無を確認する。

※抗凝固薬、抗血小板剤も中止する。

再開の時期については、腎臓学会誌ではオピニオンのレベルで1-2週間という記載も見受けられるが、個々に対応するべきと考える。

 

※βラクタム系抗生剤のアレルギーの時※

1) グラム陽性菌のみをターゲットとする手術や処置:クリンダマイシン(CLDM)またはバンコマイシン(VCM)

2) グラム陽性菌グラム陰性菌を考慮する手術や処置:CLDM または VCM と,アミノグリコシド系薬またはフルオロキノロン系薬またはアズトレオナム(AZT)との併用。

(術後感染予防抗菌薬適正使用のための実践ガイドライン

 

3. 主な合併症

出血

圧迫をしっかり行う。

疼痛

前処置をしっかりしておく。たくさん出血したら、腹膜刺激症状が出るためにかなり痛みが生じる。

感染症

抗生剤の予防内服。

他臓器穿刺

超音波ガイド下に施行する。

血圧

急な低下はもちろん危険。

血尿

腎盂側に出ると肉眼的な血尿が出る。見た目が派手だが、一般的には出血量は少ないことが多い。ただし、膀胱タンポナーデになると大変。

尿量低下

出血、膀胱タンポナーデなどよくないことが多いので注意が必要。

※動静脈瘻による出血の場合は、すぐに放射線科Drに依頼してカテーテル的に治療して頂く!!

 

⇒何度も書きますが、術前の評価として、出血傾向のチェックは必要。

1.出血傾向を来たす薬剤の内服のチェック!

  アスピリン、ペルサンチン、パナルジン

2.PT・APTTのチェック!

3.出血時間のチェック!

 

4. 染色法と観察

・HE染色:炎症細胞を観察する

・Masson trichrome染色:尿細管など線維化の程度を観察する

・PAS染色:メサンギウム領域を観察する

・PAM染色:基底膜を観察する

 

5.  腎生検所見の記載方法

<腎生検所見記載例>

検体の皮質髄質比   :

総糸球体数   個

全節性硬化   個

===============================

半月体形成:細胞性   個、線維細胞性   個、線維性   個

管内増殖性病変     個、癒着      個

メサンギウム領域:基質:      細胞:

糸球体基底膜:二重膜(-)、点刻像(-)、スパイク形成(-)

フィブリノイド壊死(有、無)

血栓(有、無)

================================

尿細管・間質:尿細管萎縮(-)、間質性線維化(-)

血管:硝子化・線維性内膜肥厚(-)

================================

IF:IgG(-)、IgA(-)、IgM(-)、C3(-)、C4(-)、C1q(-)、Fib(-)

================================

病理診断:

臨床診断:

※病理診断と臨床診断は必ずしも1対1対応ではない!!

腎障害・尿検査異常

1.  尿検査異常で来院したら…

 

蛋白尿、赤血球円柱⇒糸球体病変

蛋白尿のみ⇒糸球体基底膜病変

顕微鏡的血尿のみ⇒メサンギウム病変

電解質異常を伴う⇒間質病変の合併を疑う

  

蛋白尿

※まずは慢性か急性かの判断

・過去に健診での異常の指摘の有無などいつ発症したかの確認

・腹部エコーで腎の大きさ確認(正常は10cm)

・尿蛋白定性に加え定量も測定する(尿蛋白÷尿Cr≒1日蛋白尿量)

・血液検査で、自己抗体、DMの有無、動脈硬化病変の有無(TBI・頚動脈エコーなど)を確認+家庭血圧確認

 

血尿

※まずは慢性か急性かの判断

・過去に健診での異常の指摘の有無などいつ発症したかの確認

・腹部エコーで腎の大きさ確認(正常は10cm)

・糸球体性か非糸球体性か⇒非糸球体性なら尿細胞診で悪性細胞の有無の確認!!

 ※変形赤血球の有無を確認する!!

・女性なら、月経中か確認する

・血液検査で、自己抗体など確認

(例:IgA/C3>3;IgA腎症疑う、ANCA陽性;ANCA関連腎炎を疑う⇒腎生検へ)

・上記の自己抗体など乏しい場合は1カ月後再診し、腎機能悪化ないか血尿程度悪化ないかを確認していく

 

※先天性腎疾患の可能性も考え、問診では家族歴、難聴、視力障害、低出生体重の有無を確認。

 

2.  腎機能障害で来院したら…

※尿検査と同様に、まずは急性・慢性の確認!

急激に悪化しているのか、慢性的にゆっくりと悪化しているのか確認。

※尿検査異常は過去に指摘されているのかを確認!

※シスタチンCも評価する

最低限確認すべき事

糖尿病の有無、血圧 /mmHg、下腿浮腫の有無

既往歴:甲状腺疾患の有無、心血管障害の有無

内服薬:サプリメントの有無、抗血小板剤・抗凝固薬の有無

家族歴:腎障害の有無

⇒上記を確認して、免疫関連も含めた血液検査、尿検査(定性、定量)、腹部エコー(腎のサイズ、形状、腎生検の可否、ナットクラッカー症候群などの血流障害の有無の確認)施行する。

※糸球体病変、糸球体基底膜病変、メサンギウム病変、間質病変の何れが病変の主座なのか考えて、腎生検が可能であれば腎生検を予定する⇒腎生検予定するなら、血算、出血時間、APTT、PT確認と抗血小板剤、抗凝固薬休薬する!

 

-ひとくちメモ-

血清Crと血清シスタチンC

血清Cr:食事や筋肉量、運動の影響を受ける

血清シスタチンC:食事や筋肉量、炎症、年齢、性差の影響を受ける

高血圧診療

1.  高血圧初診外来

高血圧診療において、まずは二次性高血圧(原発性アルドステロン症、腎血管性高血圧、褐色細胞腫、甲状腺機能亢進症など)の有無についての精査を行う。

<観察すべき項目>

外来血圧測定、甲状腺触診、頸動脈雑音の有無、心音(心雑音の有無)、腹部血管雑音、下腿浮腫の有無

<問診すべき項目>

症状の有無(頭痛、発作性のふらつきの有無など)、家族歴(高血圧家族歴、心血管イベントの有無、腎障害の有無)、既往歴(高血圧歴、健診で異常指摘の有無)、嗜好品(喫煙の有無)、内服薬(漢方薬、甘草、仁丹)の確認、サプリメントの確認

<検査すべき項目>

画像検査

・胸部レントゲン:心胸比(心不全の有無の確認)

・腹部エコー:腎のサイズ(背部から観察)→正常腎サイズ:約10cm

・腎血流ドプラ:腎血管狭窄の有無の精査⇒腎血管性高血圧の鑑別(疑わしければ腎シンチ、レノグラム)

・四肢血圧測定(血圧脈波)⇒左右差血圧確認

・24時間血圧測定

血液検査

血算、一般生化学・電解質に加えて…

・アルドステロンとレニン:アルドステロン値>120pg/mlかつARR(アルドステロン濃度/レニン活性比)>200なら、腹部CTで副腎の腫大の有無(thin sliceで観察する)、生食負荷試験施行する。

甲状腺ホルモン(正常値:TSH 0.49-4.67μIU/mL、FT4 0.7-1.9ng/dL)

・尿中カテコラミン(U-カテコールアミン3分画、U-メタネフリン分画、U-VMA定量、U-Cre)

・ACTH、コルチゾール好酸球低下⇒クッシング症候群を疑う

他科受診

・眼科受診(眼底検査をお願いする)

※本態性高血圧は除外診断!!

 

2. 原発性アルドステロン症の鑑別

生食負荷試験

実施前に確認すること

心電図・心エコーを確認!

心腎機能(eGFR>30ml/min/1.73m2、BNP<100pg/ml、心エコーでEFの低下がない、不整脈がない、胸部レントゲンでうっ血なし)

低K血症がないか

TTKG確認(尿浸透圧、尿中K、血漿浸透圧、血中K)

※β遮断薬を中止しているか(レニン、アルドステロンを抑制作用があるため):14日間以上中止する

※アルドステロン拮抗薬(セララ、スピロノラクトン、ミネブロ)を中止しているか:6週間~2ヶ月以上中止する

手順

※延食にする!

①負荷前にアルドステロン臥位、レニン活性臥位、レニン定量臥位を測定

②生食1000ml(正式:2000ml)を2時間(正式:4時間)で投与

③負荷後にアルドステロン臥位、レニン活性臥位、レニン定量臥位を測定

判定

負荷後アルドステロン値(PAC)>85pg/ml(日本内分泌学会診断基準)

負荷後アルドステロン値(PAC)>67.5pg/ml(アルドステロン産生腺腫の診断基準)

負荷後レニン活性(PRA)>0.5では続発性アルドステロン症

 

※生食負荷試験で陽性なら、原発性アルドステロン症であった場合手術希望するかを患者様に確認し、希望する場合は、入院手続き+腹部造影CT(副腎thin slice;右副腎静脈位置確認のため)を確認して、副腎静脈サンプリングをオーダーする。

⇒院内では、選択的サンプリング術前目的とオーダーする!!

※副腎静脈サンプリングをした場合は、必ず医師が分注して下さい。

 

副腎静脈サンプリング

局在診断における感度,特異度がAVSより優れているとの報告はない。それゆえ、PAの手術を考慮する場合には、現時点ではAVSが最も標準的な局在診断法である。

基本的に評価は、左右副腎静脈、下大静脈末梢側で評価する。

 

※以下の手順で、①カテーテル挿入が上手く行っているか→②アルドステロン過剰産生局在判定の手順で評価する。

 

カテーテルの挿入についての評価

 

ACTH負荷なし

ACTH負荷あり

絶対量

副腎静脈のコルチゾール

40μg/dl以上

副腎静脈のコルチゾール

200μg/dl以上

副腎静脈/下大静脈末梢側

コルチゾール比で3以上

1.1~3は境界型

副腎静脈/下大静脈末梢側

コルチゾール比で3以上

※上記を満たせば、カテーテルがきちんと入っていることが確認できる。

 

②アルドステロン過剰産生局在判定評価

 

ACTH負荷なし

ACTH負荷あり

絶対量

副腎静脈のアルドステロン値

2500pg/ml以上

副腎静脈のアルドステロン値

14000pg/ml以上

アルドステロン/コルチゾール左右比

4.7以上

1.98~4.7は境界型

アルドステロン/コルチゾール左右比

4以上

2.6~4は境界型

 

 

3. 尿中カテコラミン評価

尿中カテコラミン÷尿中Cr×100を計算して、以下の基準と照らし合わせる

 

 

基準下

基準上

U-AD

3

15

U-NA

26

121

U-DA

190

740

U-VMA

1.3

5.1

U-MN

0.05

0.23

U-NMN

0.07

0.26

 

上記の検査で正常上限の3倍以上を認めた際は、副腎CT・MRIで副腎の腫瘤を確認。

さらに、131I(123I)MIBGシンチグラフィで確認する。

※造影剤はクリーゼ誘発の可能性があるため原則禁忌!!